『アルゼンチンババア』 お日さまの下のタンゴ
『初恋のきた道』に続いて、‘健気なな女の子シリーズ(?)’第二弾。
よしもとばななさんの本は、「みんなが読んでるからわたしは読まんでええじゃろ」というひねくれた理由で読んでいません。当然この本も未読なのですが予告で流れるタンゴに魅かれて映画を観ました。
原作のファンの方々には不評なようですけど・・・。
みつこの母親が亡くなったある冬の日、父は家を出て行方不明になった。みつこは家で待ち続けたが、夏になっても父は帰ってこない。
しかしある日、近所に住むおじさんがある場所で偶然父の痕跡を見つけた。そこは、町外れにある廃墟のようなビル。人々からは‘アルゼンチンビル’と呼ばれている。
父を探しに行くべく‘アルゼンチンビル’へと向かうみつこ。果たして彼女を出迎えたのは、得体の知れない謎の人物として町で有名な‘アルゼンチンババア’だった・・・。
以下ネタばれ。
‘タンゴはひとりでは踊れない’なんていうコピーか何かを聞いたことがありますが、お父さんもみつこちゃんもそれぞれがひとりで苦しんでいて、とてもタンゴなんかを踊れる状態ではありませんでした。
文字通り‘穴にはまって’、物理的にも精神的にも身動きが取れなくなっていたお父さん。心に秘密を抱え石のように強張った表情ばかりを浮かべていたみつこちゃん。
お母さんの死によってばらばらになりかけていたそんなみつこちゃんとお父さんを再び結びつけ、新たな家族として甦らせるのが‘アルゼンチンババア’ことユリさんです。
アルゼンチンビル自慢の屋上庭園。
最初はみつこちゃんもみつこちゃんの叔母さん(お父さんの妹)もユリさんのことをよく知らなかったのでかなり警戒して反感を持っていたのだけど、それも無理はない気がする。たぶんわたしでも同じように考えててしまうだろうな。自分の兄さんがそんな変な女(と世間では評判の)と変なことになってる(ほんとは変でもなんでもないんだけど)なんて!人様の目を気にして妹がムキになって連れ戻そうとするのも、仕方ないと思います。
その一方で、ユリさんにタンゴやハチミツのとりかたを教えてもらって‘自分もまだ何かを面白いと思えるんだ’と知ったお父さんが彼女を必要とするのも、「ユリと一緒にいたい」と言うのもわかる。まあまあ無理に引き離さなくてもいいじゃない、などと無責任な発言をしたくなってしまう。
しかし問題はみつこちゃんです。自分のことに精一杯のお父さんは、彼女がどれくらい辛かったのかということには考えが及ばない。おまけに失恋するは二日酔いになるはムチ打ちになるは(でもムチ打ちなのにあんなに大きな御影石を運べるのだろうか???)。
だから、「みつこちゃんの父親であることを放棄してしまったあなたはわたしの子供の父親にはなれない」と、ユリさんがお父さんに優しく(しかしきっぱりと)言う場面では拍手喝采でした。ユリさん、よくぞ言ってくれた!みつこちゃんも叔母さんも、きっとそう思ったはず。
ユリさんの腕キレイだなあ。
ところで、全く詳しくはないけれどわたしはタンゴ好きです(そしてラテン音楽も好き)。映画の中でタンゴが使われていると、興奮して体が熱くなっちゃう(なんかヤバイ人みたいだ)。もしかしたらわたしの前世はアルゼンチンとかそのあたりの生まれだったのかもなーとけっこう本気で考えたりします(コンチネンタルタンゴとアルゼンチンタンゴの違いがいまいち分からないんだけど、たぶんわたしはアルゼンチンの方がより好きみたい)。
この物語の中でタンゴを踊るのはお父さんとユリさん、そしてみつこちゃんとユリさんの二組(そういえばお父さんとみつこちゃんは踊ってなかったけど、そのかわりにふたりはとても大事な儀式を一緒に執り行ってました)。
お父さんとユリさんが踊るのは、性的な匂いのする大人のタンゴ。きっとこちらの方が正しい?タンゴなんだろうけど、わたしはラストのみつこちゃんとユリさんの幻のタンゴがとても好きでした。
わたしの中ではタンゴ=夜。でもみつこちゃんたちはアルゼンチンビルの屋上、太陽の下で風に吹かれながら、景色を見ながら踊る。ものすごく気持ちよさそうでした。女性同士のタンゴ、いいなあ。
そしてこのタンゴを見て、『ブエノスアイレス』を思い出しました。
とっておきの大好きな画像。
永遠の名場面としてわたしの心に刻まれている『ブエノスアイレス』のファイとウィンのタンゴ。でも、このふたりのタンゴは見ていると幸せになると同時に苦しくなってきます。ふたりがその後どうなるのかを知っているから(だからこそ、‘ふたりで踊っているこの瞬間’が余計にいとおしく感じられるんだけど)。
みつこちゃんとユリさんのタンゴはちょっと違います。実際はみつこちゃんはユリさんにもう会えないとわかっているのに、ただただゆったりした幸福感に溢れている。『ブエノスアイレス』の画面が全体的に寒々しい色合いなのに対して、『アルゼンチンババア』は黄色っぽい、暖かなトーンだったからということもあるでしょうが。
‘会いたいと思えば、いつでもどこでも会える’
(『ブエノスアイレス』のラストのファイのせりふ)
幻のタンゴから醒めて、屋上にひとり取り残されたみつこちゃん。でも彼女は、ファイと同じように感じていたんだと思う。お母さんにもユリさんにも、いつでも会えるんだ!
みつこちゃん一家に新しい家族を与え、彼らと叔母さんや従兄弟との絆をそれまでよりもっと深くしたあと、この世を去るユリさん。しかしアルゼンチンババア亡き後もみつこちゃんたちはアルゼンチンビルに住み続け、猫と来客もたくさんなのです。
はちみつ入りマテ茶を飲んで、みつこちゃんの焼いたパンをご馳走になって、時にはタンゴを踊る。ユリさんなら(もしかしたらみつこちゃんも)ハグして大歓迎で迎えてくれるはず。草ぼうぼうののっぱらにどっしりとそびえ立つアルゼンチンビル、ほんとにあったらいいのになあ。日焼け止めと虫除けを完璧にして、探しに行きたいです。
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