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2007年3月23日 (金)

『パフューム ある人殺しの物語』  天使と呼ばれた殺人者

途方もない映画です。
これは映画館で観たほうがいい。暗く閉ざされた空間で観ると、迫り来る匂いのせいで自分の五感も研ぎ澄まされてくるような気さえしてきます。DVDではこの魔力も半減してしまうのではないかな。

Perfume_70320_1_3  『パフューム ある人殺しの物語』(2006 独・仏・西)

18世紀、悪臭立ち込めるパリの魚市場で産み落とされたジャン=バティスト・グルヌイユは、人並みはずれた嗅覚を持っていた。ある日偶然出会った少女の香りの虜となり、‘香りを捉える’ことを己の仕事と定めたグルヌイユは、調香師になる。
雇われ先の香水店の店主から教えられた‘究極の香水’を作るため、彼がとった行動とは・・・。

わたしの五感は並、いや並以下かも(ついでに音感も第六感もない)。だから、そういったものに鋭い人が日頃どのように感じながら生活しているのかは想像することしかできません。きっといろいろな情報が絶え間なく入ってきて大変だろうなあ、鈍くてよかったなあなどとのんきに考えてしまいます。一体本人たちにとってはどうなんだろう?‘鋭くてよかった’と思うのでしょうか、‘こんな能力はありがたくない’と思うのでしょうか。

果たして、グルヌイユの尋常でない嗅覚は天からの恩寵だったのか、呪いだったのか。

以下ネタばれ。

Perfume_70320_4
主人公の登場のしかたのなんと不気味なことか!闇の中でぎらぎらと光る瞳、でも顔ははっきりとは見えず、表情も読み取ることはできない。
しかし物語が進むにつれ、不気味な彼を哀れに感じるようになる。こんなに彼の側に立って映画を観ることになろうとは思いもしませんでした。グルヌイユがB.ウィショーだったからということもあります、絶対。

彼を手放した人々がまるで運まで一緒に持ち去られたかのようにいとも簡単にあっけなく死んでいくのを見ると、グルヌイユはやはり何かに守られているのかと思う。
しかし同時に、神様?は彼に香りについての特別な才能を授けたにも関わらず、彼自身にはその価値観の中で最重要事項である‘匂い’を与えなかった(←『アマデウス』のサリエリを思い出します。やはりわたしはこういう人物に反応するようにできてるみたい)。なんてひどい仕打ち・・・。
でも、グルヌイユの世界にあるのは‘香り’だけ。誰も教えてないから‘神様’なんてものを知るはずもない。だから神を恨むという方向には行かず、ただただ‘香り’という自分の存在証明を追い求める。実はとっても無欲なのかもしれないと思うのは、不謹慎でしょうか。

Perfume_70323_1_1 
悪魔のような殺人者を破門にするといきり立つ司教と町の人々。それと交互に映し出される、淡々と女性を殺して着々と香水を集めていくグルヌイユ。悪魔と言われようが破門されようが、(神様と同じく)そんなのは彼にとってはどうでもいいことなのだと、このモンタージュで思い知らされます。

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不謹慎ついでに言うと、最後の‘特別な要素’であるローラを殺そうとするとき、ほんの少しだけ香水を完成させてあげたいなあという気持ちにもなってしまいました。もちろん、殺さないでほしいという思いのほうが圧倒的に強かったんだけど。

遂に香水を作り上げ、その途端に逮捕されるグルヌイユ。
彼はまさに処刑されようというそのときに香水を披露しますが、無罪になろうという意図からではなく、ただ、この究極の香水に人々がどんな反応を示すのか、彼らにどんな影響を及ぼすのか、自分の成果と存在価値を確かめたかったのだと思います(ねらいどおり期待どおりにこの香水で陶酔・狂乱状態になった人々を見て、さらし台の上で腕を振り上げ自分を誇示するグルヌイユ。・・・うう)。

その後の、彼の圧倒的な、どうしようもない孤独。
究極の香水に心の奥深くの‘愛する心’を刺激されそれを実践しても、そのきっかけをつくった本人を見ている人は誰もいない。やはり彼は存在しないのです。そのうえ、娘の仇として彼を憎んでいた(唯一彼の存在を認めていた、と言っていいと思う)父親までもが、許しを乞いグルヌイユを抱きしめる。
にせもの以外の何ものでもない、香水の香りがなくなると同時に消え失せてしまう、恥だという理由で忘れ去られてしまう愛。グルヌイユの作った‘究極の香水’がもたらしたのは、そんなものでした。
そして香水は、“彼を人並みに愛し愛される存在に変えることはできなかった”のです。

Perfume_70323_2_1 
原作には、グルヌイユがクライマックスのあの状況で彼女のことを思う場面はなかったらしいです。えっ、ここがこの物語の肝なんじゃないの?と意外に感じたのですが、製作の方々は原作を読み込んだうえであえて脚色されたのでしょうね。ちょっとBBMに似ているかも。

香りを捉えることがグルヌイユの生きる意味だった。でも本当に捉えたかったのは、あのとき出会った彼女の香り、そして彼女自身だった。そのことに、そしてその機会は永遠に失われてしまったのだということに気付く彼。貪欲に香りだけを追い求め本能に従って生きてきた、動物のようだったそれまでのグルヌイユが人間になったそのとき、彼の絶望は決定的になります。
導かれるように生まれた場所に戻り、無に還るグルヌイユ。兄弟たちとは違い、ありったけの泣き声をあげて生きるという強い意志を示した彼の、あの最後。彼は何のために生まれてきたんだろう?と、暗澹たる思いに包まれました。彼はあれでよかったとしても、です。

わたしの大好きな漫画の中に、こんな感じのせりふがあります。

 「もし彼を犯すのではなく 優しく抱きしめてくれる腕があったなら
  いや もうよそう
  彼には選択肢などなかったのだから
  これまでも そしてこれからも・・・」

グルヌイユは犯されたりはしなかったけどさ、まさにこの通りやん。
帰り道、このせりふがずっと頭の中をまわり続けていました。そして、ここまで彼の肩を持つ自分は少しおかしいのかもしれないなあと思いながらも、そういえばグルヌイユの笑った顔ってほとんど見なかったなあ・・・と考えてしまったのでした。

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コメント

こんにちは。TBとコメントをいただきながら、お邪魔するのが遅くなりました。

冷静に(普通に?)考えれば、酷い極悪人と言われても仕方ないのに、
全編、文学的なものを感じさせる構成だからか、
(ナレーションの効果が大きいかしら)
彼に肩入れして見守りつつ、虚構であることを楽しんでたというか・・・
愛し、愛されることを知らない悲しげな彼の目と、歪な哀れさで、
最後まで物語に取り込まれて観てしまいました。
いろんな意味で、印象が強く、長く心に焼きつく場面が多い作品だったと思います。

投稿: 悠雅 | 2007年3月24日 (土) 08時37分

悠雅さん、こんにちは!TB&コメントありがとうございます!
そうなんです。本当ならあんな人冗談じゃない!と思って当然なんですよね。でもこの映画を観ていると魔法にかけられてしまったようで。普段の価値観も何か麻痺してしまったのでしょうか。映画というのは非日常の世界なんだなあという当たり前のことに、改めて気付かされました。コワイ監督です。
実はナレーションがJ.ハートだということを知らなかったんですけど、御伽噺の語り手として見事でした。
あー、なんだか残り香がまだ感じられるようです。映画館で観られてよかった☆
それではこの辺で。ありがとうございました!

投稿: かいろ | 2007年3月24日 (土) 23時10分

かいろさま、こんにちは。拙記事にコメントとTBをありがとうございました。
こちらからもTBさせて下さいね。
私も、この映画は映画館で観てよかったと思いました。
ローラ、かわいかったですよね・・。
あの回想場面が原作にないとは驚きです。原作を読んだ方は皆さん「すごい小説」とおっしゃっていますよね。
確かに、あそこはBBMと似ていますね!
最初の赤毛の少女、ジュリエット・ビノシュに似ていました。
ではでは、また来ますね~。

投稿: 真紅 | 2007年3月25日 (日) 01時12分

真紅さん、こんにちは!TB&コメントありがとうございます!
同僚が観たいんですよね~と言っていたので、「これは映画館で観らんといかんよ!!!」(←方言でございます)と完璧にまわしものになって強力プッシュしときましたですー。
原作、今本屋さんで平積みされていますね。聞くところによると、原作ではグルヌイユの苦悩がより深く描かれているそうで・・・。これ以上彼の心情にシンクロするのは恐ろしいような気がしますが、やはりちょっと読んでみたいです。
ローラ可愛かった!!!あの13人の中では別格の存在でしたね、ほかの方には失礼ですが。でも実は最初の赤毛の彼女のほうがわたくしはタイプなのです☆ あの果物食べたいな~、彼女に剥いてもらって♪(←ヘンタイ?)
それではこの辺で。ありがとうございました!

投稿: かいろ | 2007年3月25日 (日) 19時57分

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