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2006年6月22日 (木)

蜘蛛女のキス

蜘蛛女のキス Book 蜘蛛女のキス

著者:マヌエル・プイグ,マヌエル プイグ
販売元:集英社
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今回もまたこじつけBBMです。そして暗ーい内容になります・・・。

映画「蜘蛛女のキス」は、主演のウィリアムハートに‘名だたる映画祭での主演男優賞三冠’をもたらしたそうです(カンヌ・英アカデミー・米アカデミー)。これもまた映画を先に観て、小説を買ったときに表紙の絵を見ておおーっと思いました。最近は映画のポスターなんかがそのまま小説の表紙になることが多いようですが(BBMもそうですね)、この「蜘蛛女のキス」は一味違うんですねえ、わざわざ映画の一場面を絵にしたものを表紙にしています。ウィリアムハートに敬意を表したのかなあと勝手に考えているわたしです。それほど彼が演じたモリーナは素晴らしかったので。

アルゼンチンの刑務所で、同じ監房に入れられているモリーナとバレンティン。モリーナは中年の同性愛者で、罪状は未成年者に対する猥褻行為。バレンティンは異性愛者で政治犯の若者。全く違う人生を送ってきたふたり。しかし、真っ暗で何もすることがない夜、大衆文化を愛するモリーナがバレンティンに自分の大好きな映画の話を聞かせ、バレンティンが自分の目指す世界のあるべき姿を語るうちに、ふたりは少しずつお互いを理解するようになっていく。(この小説の主な部分はほとんどが二人の会話のみで進められていきます。)

以下ネタばれです。

刑務所の所長は、政治犯たちの組織の情報を引き出すためにモリーナに仮釈放というえさをちらつかせて同室であるバレンティンを探らせていました。しかしモリーナはバレンティンを愛してしまいます。所長の策略で体を壊したバレンティンの世話を献身的に行うモリーナ。バレンティンも、何の見返りも求めずに自分に尽くしてくれるモリーナのことを信頼し、ふたりは“肉体的レベルで結ばれる”(訳者による解説より)までになる。
しかしラスト、これまた所長の策略で監視付きで釈放されたモリーナ。バレンティンの為に組織と接触を図ろうとした彼は、危険を察知した組織のメンバーによって殺されてしまいます。一方のバレンティンはモリーナが出て行った後度重なる拷問を受け瀕死の状態に。そのバレンティンが見ている夢の場面でこの物語は終わります。はー、なんつう悲しくて暗い話なんだろう。映画を観ても小説を読んでも落ち込んでしまったわたしですが、その落ち込みには更に続きがあったのでした・・・。以下は小説の訳者による解説からの抜粋です。

Kissofthespiderwoman_0622_1 “性的マイノリティーと政治的マイノリティーが互いの立場を理解し、前者は政治的に目覚め、後者は性的タブーを乗り越えたように見える。しかし、バレンティンは心の中の女性をついに消し去ることができなかったし、モリーナの死は政治的覚醒によるものではなかった。彼はたぶん映画の中のヒロインに自分を重ね合わせ、バレンティンの為に死んだのだ。結局二人は ~中略~ 内なる監獄から自由にはなれなかった。 ~中略~ この物語を、コミュニケーションが成立したと見せながら実は成り立っていなかった、つまりモノローグの物語と見るとき、その悲劇性は一段と増し、深い悲しみを誘うのだ。”

ががががーん(←ここの部分を読んだときにわたしが受けた衝撃)。

そして、以前(毎度のことながら)びあんこさんかすあまさんのところで‘イニスとジャックはは分かり合えているようで結局分かり合えていなかった’という記事を拝見したときに、わたしは真っ先にこの「蜘蛛女のキス」の解説を思い出したのでした。
イニスとジャックは同じように愛し合っていて同じように会えないことに心を痛めていたと思いたいけれど、実際はふたりが思い悩んでいたことはまるで違っていました。というよりふたりが立っている位置?スタンス?からしてもう違っています。

小さいとき、わたしは友達と砂場で砂山を作って、両側からトンネルを掘り「わー、届いたー」と言って手を握るのが大好きでした。これを例にたとえると、ふたりで山を作ってトンネルを掘ろうとしたイニスとジャックですが、実はイニスの方は山を見ているだけで何もできず、ジャックはジャックでイニスの手に届くようにと素手でいろいろな方向からがんばって掘っていたのかなあと。はーまた悲しくなってきた。

でも、モリーナとバレンティンが死んでも(あるいは死にかけても)お互いを真に理解することができなかったのに対し、イニスとジャックは最後になんとか同じ位置に立つことができました(しつこいようですが映画では、ですね)。「蜘蛛女のキス」は好きなのは好きなんだけどあまりにも救いがないので何度も観るのは辛いのですが、BBMはこういう終わり方になっていて本当に良かった、ありがたい、と思う次第です。

Kissofthespiderwoman_0622_2

モリーナのせりふや、彼がバレンティンに聞かせる映画の中に出てくる歌の文句にまたもジャックを思い出させるものがたくさんあって、はあーっとなってしまうのですが、最後に「あーもうジャックだー」とわたしが思ってしまったせりふを抜粋して終わらせていただきます。

『あたし、あなたと一緒にいたいの。今、ただひとつの願いは、あなたと一緒にいることなの』

ちょっとセンチメンタルすぎでしょうか?でも、ジャックはここまでは言わなかっただろうけど、気持ちはこんなだったんじゃないかなあ・・・。

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コメント

かいろさん、こんばんは。
「蜘蛛女のキス」、シビアですよねー。
私は大昔に小説を読んだきりなのですが。その記事をTBさせていただきました、よろしくお願いします。

>ジャックはジャックでイニスの手に届くようにと素手でいろいろな方向からがんばって掘っていたのかなあと

まだしもイニスとジャックの方が幸せでしたよねー。
砂場で両方から掘っていく話、私も幼い頃を思い出しました。
一緒にいたい人と一緒にいる。それだけのことが、どうしてあんなに難しかったのでしょう?

投稿: びあんこ | 2006年6月23日 (金) 19時56分

びあんこさん、TB&コメントありがとうございます!
はい、とってもシビアで消耗する物語でした・・・。
プイグの小説、もうひとつ読んでみたのですが、そっちはもっとすごかったです。

>一緒にいたい人と一緒にいる。それだけのことが、どうしてあんなに難しかったのでしょう?

本当ですね・・・。シンプルなことなのに。はあ~、やっぱり落ち込みです。それではこの辺で。ありがとうございました。

投稿: かいろ | 2006年6月24日 (土) 07時19分

かいろさん、こんにちは。私も落ち込み中です。すご~く、落ち込み中。
さて。『蜘蛛女のキス』、学生の頃に映画館で観た気がします。
すっごい話題作だったのですが、子どもだった私には「怖い」という印象しか残りませんでした。
この頃、ウィリアム・ハートは絶好調で、『愛は静けさの中に』っていう映画もすごくよかった。
相手役の女優さんにオスカーをもたらしたと記憶しています。この映画は子どもの私でも理解できました(笑)。
今だったら理解できるかな、『蜘蛛女のキス』。原作も素晴らしいのですね。
また映画のこと教えて下さい。ではでは。

投稿: 真紅 | 2006年6月24日 (土) 15時30分

かいろさん、こんにちわ。おじゃまいたします。いつもお世話になっております。
映画は皆様に比べたらほとんど観ないも同然なのですが、題名だけは知っている「蜘蛛女のキス」ってこんなに暗いお話だったんですね。

>あたし、あなたと一緒にいたいの。今、ただひとつの願いはあなたと一緒にいることなの。

これはもうジャックの気持ちそのじゃありませんか(泣)。それに、ジャックとイニスの気持ちは食い違ってたかもしれないけど(私は違うと思いたいですけど)、「蜘蛛女のキス」の2人の思いや行動は訳者の解説とは異なるのではないでしょうか。すみません、観てもいないのに偉そうなこと申し上げてしまって。
でも、かいろさんの記事を拝読した限りでは解説文のように2人の気持ちが、いわば一時の気の迷い的錯覚とはとても思えません。悲劇的な結末ではあっても2人の魂は結びついていたと思いたいです。
と勢いづいたところで、これからBBM:映画も小説も(2)にコメントさせていただこうと思います。よろしくお願いいたします。

投稿: 沙斗魔 | 2006年6月24日 (土) 16時06分

真紅さん、沙斗魔さん、コメントありがとうございます!まとめレスさせてくださいませ。

・真紅さん
どどどどうされたのですか?なんで落ち込まれているのですか???真紅さんのところに伺ってみましたが手がかりなしだったのですごすごと戻ってまいりました・・・。元気出してください~。

「蜘蛛女のキス」、とても暗いし閉塞感もものすごいし、わたしももっと前に観ていたら‘怖い’と思ったかもしれません。でもいい映画なんですよ~、暗いけど。是非もう一度観ていただきたいです~、暗いけど。←しつこすぎ
「ヒストリーオブバイオレンス」で怖かったウィリアムハートは、今度またサイコな役を演じるそうです。幅広いですねえ。でもこの人が怖い役するとほんとに怖いから、観るかどうかはわかりません・・・。ではこの辺で。元気出してくださいね!(だからしつこいんだってばさ!)

・沙斗魔さん
こんにちは!こちらこそお世話になっております!
沙斗魔さんに“DVDの発売時期はお彼岸”と教えていただいたので、今年のお盆はおはぎをいつもより多く仏壇にお供えして(ジャックの分ってことで☆)精霊流しに持っていこうかなあと思いついてしまいました~。意味不明ですが。

ここでも強調させていただきますが、「蜘蛛女のキス」本当に暗~いお話です。元気なときに観たとしても確実に落ち込むことができると思います。でも好きなんです~。なんででしょう?自分でも不思議です。
上にあげたせりふ、ジャックですよね?ご賛同いただいて嬉しいです!調子に乗って他にもジャック(イニスでもあるかも)を思い出させられるせりふを引用させていただきますね~。

“考えてもみなかった 
 君への思いがこれほど強くなろうとは 
 思ってもみなかった 君に心奪われようとは
 だからこそ ぼくは君を想い出す
 近くにいても 遠くにいても ぼくは君を想い出す
 夜も昼も 妙なる調べのように
 君はぼくの心の中にいる
 ぼくは君を想い出す”

うーん、もっとセンチメンタルですねえ。ちょっと恥ずかしい・・・。それではこの辺で。ありがとうございました。 

投稿: かいろ | 2006年6月24日 (土) 20時41分

かいろさん、再びお邪魔します。
ご心配かけてすみません!!昨日の朝のヒデの涙にもらい泣きして、ず~っと落ち込んでおりました。
が!!代表監督、オシムにオファーのニュース!!よっしゃあ~、とばかりに元気復活しています。
「え?オシム??誰それ?」って感じでしたら拙宅、古いエントリですがオシムについて書いておりますのでお暇なおりにでも(代表監督決定後にでも)読んでみて下さいませ。
と言いつつURL貼り付けたりして・・。
http://thinkingdays.blog42.fc2.com/category3-1.html
ではでは。ありがとうございました~。

投稿: 真紅 | 2006年6月24日 (土) 21時48分

こんばんは、かいろさん。もっと早くコメントした
かったのですが忙しく、、。私はTVでだいぶ前に
観ました!その時の印象は、なんて、救いのない
物語なのか、、と。でも、ウィリアム・ハートの
熱演は素晴らしかったです!”この人、普段も
こんな感じで喋るんでは?”と錯覚するほどでした。
だから、余計にラストが救いがなくて、、(涙)。
この、原作本の表紙、本当に素敵ですね、、あの
映画の悩ましくも、優しい、献身的なモリーナの感じ
がよく出ていると思います。

かいろさん紹介の原作のセリフ、、、切なくて、
胸を打たれます、、、BBMに通じますね。
でも、人と人はやはり、なにか幻想で結びつているところ
があるんではないですかね??
自分自身の事もよく解らない時があるのに、、、
人の気持ちなんて、本当に想像付かない事が
沢山あります、、、始終一緒に生活していても。

砂山もよくやりましたよねー!あの、砂中の相手の
生暖かい手の感触、、、思い出しました。

物語事態は救いがないですが、モリーナが語る”蜘蛛女”
の話は映像も幻想的でしたよね、、。

投稿: sumisu | 2006年6月26日 (月) 19時39分

真紅さん、sumisuさん、コメントありがとございます!まとめレスさせてくださいませ。

・真紅さん
は~、お返事がむちゃくちゃ遅くなってしまいました・・・。本当に失礼いたしました、申し訳ありません~。
でもお元気になられたようでよかったですー(ホッ・・・)。遅くなりましたが教えていただいた真紅さんの記事にコメントさせていただきました、よろしくお願いいたします。しかし真紅さんのご趣味も幅広いのですねー。わたしはもっぱら映画なので、尊敬です。そして真紅さんの書かれる文章、やっぱり好きです~。改めてこれからもよろしくお願いいたします!
ではこの辺で。

・sumisuさん
またお越しくださってありがとうございます!
実はわたしがウィリアムハートを観たのはこの映画が初めてだったので、まさに

>この人、普段もこんな感じで喋るんでは?

と思っていたのです!その後いろいろな映画で見かけるたびに雰囲気が違っていたので、はあー、すごい人なんやなあと感心してしまいました。

>悩ましくも、優しい、献身的なモリーナ

本当にそうでした・・・。手の動きとか、今でもなんとなく思い出せそうな気がします。そして、

>人と人はやはり、なにか幻想で結びつているところがあるんではないですかね

はい、仰るとおりです・・・。本当に救いがなくてげっそりしてしまいました・・・。でもモリーナは最後きっと幸せだったんだろうなあ、でもわたしは納得いかないんだよな~とぐるぐるしてしまいます。あ~、やっぱりちょっとBBMなのでしょうか?どちらの登場人物にも幸せになって欲しかったです・・・。
あとひとつ、原作で好きだったやりとりを紹介させていただきます。

「あんたは蜘蛛女だ。男を糸でからめとる」
「素敵!それ、気に入ったわ」

それではこの辺で。ありがとうございました。

投稿: かいろ | 2006年6月26日 (月) 22時39分

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